原子力の安全 司令塔と責任の所在が見えぬ(6月27日付・読売社説)

 原子力発電所の安全を確保する司令塔役は、政府のどの機関が果たすのか。福島第一原発の事故以来、それが分かりにくい状態が続いている。

 従来は、内閣府に置かれた「原子力安全委員会」が責任を持って対処することになっていた。

 委員は専門家5人で、事務局に約100人の職員がいる。原発を新設する際の「安全設計指針」などを定めたり、事故時に、政府や自治体が取るべき対応を「防災指針」にまとめたりしてきた。

 この安全設計指針に基づき、経済産業省の原子力安全・保安院が原発設置申請を審査し、それを安全委が点検して漏れを防ぐ、二重チェック体制になっている。

 安全に重大な懸念がある場合は首相を通じて関係府省、機関などに勧告する強い権限もある。

 ところが、今回の事故で、安全委はほとんど表に出て来ない。

 「政治主導」の名の下、首相官邸が、これまでの政府方針を踏襲せず、独自に専門家を参与に任命したり、事故対応組織を乱立させたりしたためだ。菅首相も「自分は原発に詳しい」と自負し、安全委を活用していない。

 安全委は、自ら定めた「防災指針」に則のっとって対応を主導すべき立場にある。だが、今回は委員会設置法に定められた最小限の役割をこなすのにとどまっている。関係府省の要請に、専門的助言をしているだけなのは物足りない。

 この非常時こそ、積極的に動く責任が安全委にはあるはずだ。

 事故の収束作業は難航し、他の原発の地元も、安全性に疑念を抱く。全国の原発が次々と停止に追い込まれ、電力供給に支障が出ると心配されている。

 そんな中、安全委は先週、これから新設される原発の安全設計指針などの見直しに乗り出した。

 優先順位を間違えているのではないか。今は、事故の早期収束と既存原発の安全性を確かなものにすることに注力すべきである。

 班目春樹委員長の発言も不可解だ。運転中の原発について「規制の責任は経産省にある」と他人事ひとごとのように言う。「(原発の)水素爆発はない」と助言し、爆発時の政府対応を遅らせもした。

 事故で信頼が失墜した原子力の安全規制行政を立て直さねばならない。原発の安全性向上と、その対策に国民の理解を得る中心的役割を担っていかなければ、安全委の存在理由は失われよう。

(2011年6月27日01時00分 読売新聞)

 
 
  
 
  
 
 
    
 
 
  
  

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